2015年

12月

09日

うまくいかない夫婦関係…パートナーは発達障害?

 

ヨミドクター編集長の岩永直子です。

 専門家シリーズ、次は発達障害の一種である「アスペルガー症候群」に詳しい「どんぐり発達クリニック」院長の宮尾益知さんです。宮尾さんは、小児神経内科、児童精神科がご専門ですが、子どもの発達障害を診ているうちに、子どもが思うように改善しない場合には両親のコミュニケーションに問題があることに気付き、大人の発達障害、特に夫婦、家族関係の問題も考えながら診るようになりました。性とパートナーシップで体験談を取材してきたところ、意図せずして2組のカップルでアスペルガー症候群が影響していたことがわかりました。100人に1人が抱えているとも言われるこの発達障害は、もしかしたら気付いていないだけであなたや身近なカップルの性とパートナーシップに影響を与えているかもしれません。

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 ――まず、アスペルガー症候群とはどのような発達障害なのですか?

 「今は、『自閉症スペクトラム障害(ASD)』という診断名に統一されていますが、一般に『アスペルガー症候群』や『自閉症』という言葉もまだよく使われていますね。ASDは、社会生活に必要な三つの能力に問題がある発達障害です。三つの能力とは、1はコミュニケーション能力、2は想像力、3は人と社会的関係を持つ能力です。ASDのうち、知的能力が正常範囲以上で、言語発達の遅れもない方をアスペルガー症候群、知的発達に遅れがある方をカナー型自閉症と言います。アスペルガー症候群は、真面目で規則を守り、決まったパターンの仕事については集中力があり、専門的な職種で力を発揮するなどの長所がある一方、変化に弱い、周りの空気が読めない、言葉で表現するのが苦手で誤解されやすい、社会の暗黙のルールがわからないなどの短所があります。その人の個性や生い立ち、社会的な経験によって様々な症状が表れるので、一人一人抱えている問題も異なります」

 ――アスペルガー症候群はどのぐらいの割合でいると言われているのですか?

 「アメリカでは130人に1人ぐらいと言われていますが、日本でもおおむねそれぐらいだと思われます。男性の方に多く、男女比は5:1とも言われていますね。知的能力が高いため、就職も結婚も通常通りされている人が多いので、大人になるまで気付かれなかった『大人の発達障害』として最近、注目されるようになりました。中には、医師や弁護士、企業の管理職など社会的に高い地位にある人も数多く含まれています」

 ――アスペルガー症候群の夫を持った妻が抱える問題も注目されていますね。

 「夫とのコミュニケーションがうまくいかないのに、周囲の人には『真面目ないい旦那さんじゃないの』とか『男なんてたいていそうよ』と受け流され、わかってもらえないことで、自分が悪いと考えてしまい自信を失ってしまいがちです。心の葛藤から、心身に苦痛が生じてしまう状態を『カサンドラ症候群』と、イギリスの臨床心理士であり自身も同じ状態であるアストンにより提唱されました。カサンドラとは、ギリシャ神話で太陽神アポロンに予知能力を授けられたトロイの王女の名前で、トロイの滅亡を予知して周囲に伝えるのですが、信じてもらえずにトロイは滅亡してしまいます。周りに夫の問題を理解してもらえないアスペルガー症候群の夫の妻も似たような状況に置かれるためということです。偏頭痛や体重の増減、自己評価の低下や抑うつ、パニック症候群などが典型的な症状です。海外から始まりましたが、日本でも同じ問題を抱えた女性たちの自助グループ活動が始まっています」

 ――「性とパートナーシップ」で体験談を取材すると、セックスやパートナーシップがうまくいかないカップルの背景に、アスペルガー症候群が隠れていたケースが複数ありました。どういう特徴が影響を与えると考えられるのでしょうか?

 「私の診ていたアスペルガー症候群のお子さんのお母さんに話を聞いていくのですが、お父さんがほとんど出てこないことが多かったんです。シングルマザーかな、離婚されたのかなと思うぐらいに。勇気を出して聞いてみたら、同じような疑問を持ったお父さんたちの行動パターンは全部一緒でした。家庭内での社会性がないし、人の心がまったく読めていない、奧さんとのコミュニケーションがまったく取れていないとのことでした。お母さんはほぼ全員がうつになっていました。そこでそのお父さんを変えれば、母のうつはよくなり、子どもも思ったように改善するのではと考えました。そのような、お父さんだけを集めてみたら、みなさん立派な紳士たちでした。会社の重役とか医者とか社会的地位の高い人ばかりで、セミナーの現場で私に質問される内容も理路整然としていましたし、家庭内で社会性がないと母たちから言われていましたので『あなた方はどうやって社会性を身につけたのですか』と聞いてみると、『僕は損得で身につけてきました』という人が多いのですね。知的能力が高いから、社会の中で損得を考えて動いて、今の高い地位を得たということでした。翻って、家庭の中では損得は生じないわけで、せいぜいおいしい食事、温かいもてなしが得としてあるわけですが、それはあまり意味をなさないとのことでした。だから、家庭内での社会性である夫婦関係に反映されないのではと考えるに至りました。また外の世界のビジネスで有効である素早い判断、冷静な分析、冷徹な人への評価は、家庭内では逆の効果を生み出します」

 「家族関係にも注目して、成育歴についても考えてみると、アスペルガーの男性は新しいことになじむのが苦手です。家族関係から考えてみると、ある時期までは母親の息子ですよね。思春期になって恋をして、結婚する。そこでの問題の一つは、自分が『母親の息子』という意識のまま、母親とつながったまま、結婚してしまうことなのです。女性は母しか知らないですから、女性の未熟な時代も知りませんし。新婚時代から、自分の母親と同じ役割を妻に求めてしまいます。さらに、奧さんがうつになってしまう原因として、ご主人の母親の存在があります。母親にとって、一流大学を出て、一流企業に務めている息子は自分の誉れです。その息子の子どもの出来が悪かったら、奧さんが悪いということになります。その思いがいつも降りかかってしまう。自分の息子は一流大学を出ているのに、勉強をしない、勉強ができない孫は、妻が頭が悪いか育て方がだめなのかということになります。『私は母親としてこんな社会的に立派な息子を育てたのに、あなたは怠慢』という視線が常にあるわけです。そうすると必死に子どもを教育しようとします。子どもは母に反抗し、母はますます気持ちが保てなくなります。そんな子どもたちがたくさんいます。おまけに祖母は孫に甘いので、同じ家の中でダブルスタンダードができてしまいます。妻はパニックになりますが、ご主人はそれに無頓着で、父の役割に加えて夫の役割も果たさないから、また落ち込む。奧さんが困った時に、『大変だったね。お前の味方をしてあげられなくてごめん』と言うのは夫の役割ですが、母親の息子のままでいるので、その役割を担えないのです」

 

 ――ほかのパターンはあるのですか?

 「もう一つは、逆に母親とけんかしている息子のパターンですね。基本的に母親は、社会の中でうまくやっていくために、二面性があります。例えば、PTAの担当の先生について陰で悪口を言っていても、先生の前ではぺこぺこしてゴマをすってばかりいる。それを見てアスペルガーの息子は『あの女はうそつきだ、許せない』と、母親と断絶してしまうのです。そういう場合は、奧さんがすべてになります。2人でいる限りはハッピーなんです。そこに子どもが生まれ、特に男の子が生まれると、自分にとっての恋敵になってしまうのです。奥さんに「おまえは人妻なんだから、子どもといちゃいちゃしてはだめだよ」と言ってしまいます。母であることより、妻であることのランクが高いというわけです。恋人や新婚時代はとても関係性がいいのに、子どもが生まれたとたん自分に注目してくれないので、ライバル意識を持って不機嫌になるというパターンです」

 ――そもそもアスペルガー症候群の3種類の特徴があると、恋人や妻との関係は築きにくそうですね。

 「アスペルガーの人は基本的に、自分とある程度関係のある人しか口説きません。自分に対して何となく好意を持っている人と思う人しか口説かないのです。逆に言うと、そういうサインを出している女性、先に自分に理解を示してくれている女性とくっつくのです」

 ――アスペルガーの男性に好意を持つ女性の特徴はありますか

 「いろいろあると思いますが、カサンドラ状態になっている方で言えば、二通りいると思っています。衝動的で思い込むと後先考えずに飛び込んでしまう注意欠陥・多動性障害(ADHD)タイプですね。もう一つは、自主性のないタイプ、子どもの頃から母親がすべての彼女の行動を指示し、ずっと母親の言う通りに育っている女性です。最も不幸になった方は、母から独立しようと思い、ある人を好きになったけれども学歴が良くないと母に言われてやめてしまい、母が良いといった人と結婚したら、相手がアスペルガーだったという人がいました。なんとか気持ちを持ち直して、今はあきらめの気持ちで子どものために一緒に生活を送られているということでした」

 ――アスペルガーの男性も結婚するところまではうまくいくのはなぜなのでしょう?

 「アスペルガーの男性には、恋愛時代のマニュアルが確立されています。本当に良いものが好きなのです。マニュアル通りであれば、何でもどんどんやってくれるのです。女性とうまく付き合う方法とか、ご飯を食べると言ったらこことか、ハウツーが頭の中にあって、その範囲内ではしっかりと行動力を発揮してくれる。また論理的で、真面目です。また性的なことに対する興味が薄いので、とても清潔でいい人に思えるのです。ADHDタイプの女性は衝動的で、目の前にある魅力的なものにすぐに飛びついてしまいます。アスペルガーの男性が、自分のマニュアルに沿って『フランス料理でも』とデートに連れて行くと、フランス料理に『素敵だわ』となって飛びついてしまう。今日は、給料日前だし、ちょっと雰囲気を変えて焼き鳥屋に行こうかという男性より魅力的に思えませんか。でも、結婚した後には、マニュアルがもう存在しませんし、毎日フランス料理というわけにも行きません。どうしたら良いかわからなくなり、結果、無関心になってしまいます」

 ――性的なことに興味が薄いというのはどういうことですか?

 「性的なことには二つの要因があります。一つは快楽、一つはコミュニケーションでしょう。アスペルガーの男性はコミュニケーションという概念は理解できないし興味がない。すると、もう一方の面だけになってしまいます。もし、風俗で体験をして快楽を得たとしたら、それが当たり前となって、恋人にもそれを求めてしまいます。それを奧さんがやってくれないと許せないわけです。しかし、それは女性の求めるセックスとは違うから、ずれが生じてしまう」

 ――触れられるのが苦手という特徴があるとも聞きました。

 「そういう人もいますね。狭義のアスペルガーでは、感覚過敏が強いので、触れられたり、聴覚、いろいろな音が同時に聞こえていたりということが苦手です。こだわりがうんと強いような、ガラスの心を持っている人が本当のアスペルガーですよね。社会の中でバリバリやっているような企業の社長のような人は、広義のアスペルガーですね」

 ――触れられるのが嫌というと、セックスレスに直結しますね。

 「人が嫌いと言うことにも通じますから。それもありますが、もう一つの問題は、部分に注目して、全体を見られないということですね」

 

――セックスの場合、例えばどのような問題が起きることが考えられますか?

 「直接的にある1点に触れることだけ興味がある。そこだけということです。残りは興味がないのです。本来、セックスというのは、相手のトータルに関心がありますよと示す行為でしょう。それが1点だけの関心となってしまう」

 ――性器なら性器だけと。女性としては、『なんだろう、この人』となってしまうわけですかね。でも日常的にはそのようなことが許されることは少ないと思うので、結果淡泊になってしまうということですね。

 「そういうことです」

 ――女性側で、そういう性的に淡泊な男性を選んでしまうというのは、なぜなんでしょうね。

 「例えば、若い男性がたくさん職場にいる女性ですね。僕が診ていたある患者さんは、法律事務所に勤めていたのですが、周りの男性から『あなたは本当にかわいいね』とちやほやされ、デートにも頻繁に誘われるし、性的にギラギラした目で見られ続けていたんですよ。ところが、そこにある日、自分に無関心な相手が現れて、『あんた、足太いね』と言ったそうです。そうしたら彼女は『ああ、こんな正直な人はいない』と一気に惹ひかれてしまったのです。その人は法律関係の方でした。女性はADHDタイプの人でしたね」

 ――アスペルガーの男性と衝動性のある女性は、出会うべくして出会ってしまうのですね。

 「そうですね。それに、ADHDタイプの女性にしても、過干渉なお母さんから支配されて育ってきた女性も、やはり自分を見守ってほしい、理解してほしいという欲求が人一倍強いのです。強いから、逆にアスペルガーの夫とコミュニケーションがうまくいかなくなった時に、『この人は私をわかってくれない』ということに対する耐性が弱いので、カサンドラになりやすいのですよね」

 

 

読売新聞(ヨミドクター)から引用


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