クラスに2人が発達障害? 子ども達の現実

 

皆さんは、わが子の子育てで「どうしてうちの子だけ、こんなに手がかかるの?」と戸惑ったことはありませんか? あるいは、子どもの友達やクラスの子に「言葉や行動が乱暴でちょっと気になる子がいて…」という経験はないでしょうか。


 とにかく落ち着きがない、友達の輪に入れない、着替えなどが身に付かない、忘れ物ばかりする、トラブルが多く先生に怒られてばかり――。そんな子ども達の「気になる」「困った」「どうして!?」という姿の背景には、実は「発達障害(発達の偏り)」による困難さがあるのかもしれません。


 日経DUALでは今日から、そんな子どもの気になる発達の偏りについて、特集記事として取り上げます。子どもの発達が専門の病院の医師、心理学の教授、また発達障害のある子ども達を支援している企業などに取材をしました。最終回では、「大人の発達障害」についても紹介します。1回目の今日は、発達に偏りのある子ども達の現実についてです。



■発達障害は特性。我慢が足りないとか、しつけが原因ではない

 発達障害という言葉そのものはどこかで聞いたことがある、という人もいると思いますが、詳しいことはよく分からないという人も多いようです。そもそも発達障害とは、どんなものなのでしょうか?

 発達障害というのは、子どもが社会生活をするうえで身に付けたい考え方や行動、生活習慣、学力などが、なかなか身に付けづらい状態のこと。社会性やコミュニケーション力、学習能力などの特定の発達に遅れや偏り、困難さがあるので、「発達障害」と呼ばれます。


 例えば、じっとしていなければならない場面で体が動いてしまい、そわそわしたり、立ち歩いたりしてしまう。感情のコントロールが不得意で、急にキレて暴力を振るったり暴言を吐いたりする。保育所などで周りの子どもとなじめず、活動から外れてしまう。こうした子どもの様子も、背景に発達障害があることで起きているケースがあります。


 こういう場合、「親の教育がなっていない」とか「子ども本人の性格が悪い」などと周囲から責められることが少なくありません。しかし、発達障害というのは生まれながらの特性であって、決して子ども本人がだらしがないとか、我慢が足りないということではありません。もちろん、親のしつけが原因でもないのです。


 ただ、その発達障害の特性がまだまだ一般には知られておらず、周囲の人からすると、理解できない言動に映ってしまいがちです。そのため、保育所や学校などでトラブルになってしまうことが少なくないのが現実なのです。

 

 

■小・中学校の普通学級の子どもの6.5%に、発達障害やその傾向

 発達障害のある子どもは近年、増加する傾向にあります。


 教育現場ではしばらく前から、そうした学校生活で困難の多い子どもが増えていることが、たびたび指摘されてきました。そこで、文部科学省が2002年に発達障害について全国の公立小・中学校の一斉調査を実施。その結果、一般的な通常学級の小・中学生の6.3%に、発達障害やその傾向があることが判明しました。


 1学年100人であれば、その中に少なくとも6人は発達障害の子どもがいる――。この驚くべき数字に後押しされた形で、文科省は2007年に発達障害の子ども達への特別支援教育をスタートさせています。そして最初の調査から10年後の2012年調査でも、やはり小・中学校の通常学級の子どもの6.5%に、発達障害やその傾向があるという結果が出ています。


 つまり今の時代は、30人クラスであれば、クラスに2人くらいは発達障害の子どもがいるのが「当たり前の風景」になっているのです。


 他にも、国立特別支援教育総合研究所によると、主に発達障害の子どもを対象とした、自閉症・情緒障害特別支援学級に籍を持つ児童・生徒の数は、2007年度以降、全国で毎年約6000人ずつ増えているとのデータもあります。

 

 

■社会の変化で、発達障害が目立つように

 これほど発達障害の子どもが増えているのは、一体なぜなのでしょうか。その問いを、発達障害の専門家で名古屋学芸大学ヒューマンケア学部・教授の黒田美保さんにぶつけてみると、こんな答えが返ってきました。

 「一つには、発達障害という概念が広がり、また、それが知られるようになり、教育の世界をはじめ、大人の目がそこに向けられるようになったことです」


 過去の時代にも、発達障害の特性をもつ子どもは、集団のなかに一定の割合でいたのです。いつもそわそわして落ち着かない子、集団になじめない子、不器用でいつもみんなから遅れてしまう子。皆さんも幼児期や小学校時代を思い返せば、「ああ、そういう子は確かにいたな」と思い当たるのではないでしょうか。しかし、以前は「少し変わった子」としか見られておらず、良くも悪くも、特別視されることは少なかったわけです。


 それが発達障害という概念が出てきたことで、社会的に認知され、支援が必要だと考えられるようになったということです。

 さらに、黒田さんは、社会で求められる力が変わってきたことも理由の一つに挙げています。

 「以前は、第1次産業、第2次産業で働く人も少なくありませんでした。農業や林業など、自然を相手に自分のペースで仕事をする、工場で職人として一人でコツコツと仕事を進める。そういう“人と密に接することが少ない”職業もたくさんありました。少し変わった個性を持つ人でも、その人の特性に合った形で生活や仕事ができたのです。しかし現代は、大多数の人が第3次産業のサービス産業に従事しています。サービス産業というのは『人が相手』の仕事ですから、高いコミュニケーション能力が求められます。そのような社会では、対人関係が苦手であることが多い発達障害の人は、うまく適応できないシーンが多くなり、どうしても問題視されることが多くなってしまいます」

 

■結婚や出産年齢の高齢化がある、との指摘も

 確かに、今の日本はKY(空気が読めない)とか、コミュ障(コミュニケーション障害)といった言葉が使われるように、人に対する振る舞いや人と人との関係性に、非常に気を使わざるを得ない社会という気がします。
 「コミュニケーション能力を求める大人社会の価値観は、そのまま子どもの社会にも反映されます。そういう意味では、今の日本は、昔に比べて発達障害のある子どもが『目立ってしまう』社会であり、『生きにくい』社会だともいえますね」(黒田さん)

 実は、発達障害が目立ってきたのは日本だけでなく、先進国を中心に世界的な現象といえます。発達障害が実際に増えているという説もあれば、発達障害の概念(診断基準)の変化によるという説もあり、日本やアメリカでは大規模な調査も行われています。
 まだはっきりとした因果関係は分かっていませんが、環境汚染や食品添加物、結婚・出産年齢の高齢化などの影響もあるのではないか、との指摘もあります。

 いずれにしても、今の時代、発達障害の話題は決して特別なことではなくなりつつあります。「わが子が発達障害かもしれない」ということもあり得ますし、また友人や親類など親しい人が、この問題に直面することがあるかもしれません。
 発達障害によって悩みを抱えがちな子どもに対し、親として、また身近な大人として、何ができるのかを、次回から考えてみたいと思います。

 

 

日経DUAL 2016年5月12日(木)

 

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