夫婦関係と発達障害「エリート」も多いアスペルガー

 

 

 ――最近、大人になってからアスペルガー症候群であることに気付いた「大人の発達障害」が注目されるようになりました。増えているのでしょうか?

 「絶対数が増えているというよりも、日本の家族や社会のあり方が変化し、見えやすくなってきたのだと思います。昔のようにお父さんは仕事ばかりして、遊ぶのも外で、ろくに家にいないし、家族のことは妻に任せきり。妻は妻で女同士で過ごしていて、男女7歳にして席を同じくせずという環境であれば、アスペルガー症候群の人は目立ちません。しかし、コミュニケーション能力がずっと問われるようになった今は、空気が読めない人は「KY」と言われ、仕事ばかりではなく、『お父さんも育児を』となれば様々な役割を演じなくてはならず、アスペルガーの人の問題が様々なところで見えてきます。今日、私の診療に来た女性は、アスペルガーと診断されたのが20歳です。同窓会で同級生の非言語のメッセージが読めずに、学生時代に好きだった人の自宅に連れて行かれて、望まない性行為をさせられてしまい、統合失調症のような状態を発症してしまいました。その女性の母親に話を聞くと、『夫は自分や娘の気持ちを全くわかってくれない。自分勝手』という話をしていました。昔ながらの厳格な家庭を守っている人って、たいていエリートですから、そういう中にたくさんアスペルガーの人が隠れていますよ」

 ――パートナーが対処する方法はありますか?

 「距離を持たないといけませんね。ある人のだんなさんは予備校の人気講師で、年収が数千万円ということでしたが、やはりアスペルガーでした。その奧さんは、『私はうちの夫に、息子をどういう風に遊ばせればいいかを伝える場合、すべてストーリー仕立てで書く。夫がその通りにしてくれたときには、彼が好きなコーヒーをいれてあげると、うれしそうに飲むんです』と工夫を話してくれました。してほしいことを具体的に伝えて、ご褒美を上手に与えるということでうまく回しているのですね」

 ――アスペルガーの多くは男性ということですが、男性本人はどのようにしてパートナーシップを築けばいいのでしょうか?

 「まず、お母さんの育て方が大事になってきますね。例えば、思春期になって、いいと思う女の子ができる頃から、女性はどういう生き物で、こういう風に男性に接してもらえると嬉しいのよということをパターン的に教え込むことです。こういう付き合い方をしなさい、こういうことはしてはいけませんと教え込めば、それを覚えて、実行するようになります」

 ――それ以外はできないのですかね? 応用力は身に着けられませんか?

 「でも、1人の人間がそれだけできれば十分でしょう?」

 ――確かに。一般の男性だって、「女心がわからない」と言っている人多いですものね。

 「それとお母さんが、いずれ、あなたはこの家族から離れていくのよということを息子に教え込まなくてはいけません。お母さんと息子という世界が、結婚しても続くと考えてはいけない。これは一般の男性でも言えることですけれどもね」

 ――いわゆるマザコン的な感じでしょうか?

 「そうそう。マザコンの中にもかなりそういう人がいます。健康な子どもは外で友達と遊んだり、スポーツに専念したりして自分から距離を取って行きます。そうならない子どもの場合、母親は、だんだん自分から距離を取っていくのがいいです。具体的には、12歳になったら、あんたは男で、お母さんは女なんだから、前腕の長さ以上の距離を置くということを伝える。12歳までは一緒にお風呂に入ろうが、一緒に寝ようがOK。でも12歳過ぎたら、お母さんとの距離を保つ。お風呂に入るのも一緒に寝るのもだめ。男の子にとって、お母さんは昔おっぱいを吸っているわけですから、アスペルガーの人は、高校生になってもお母さんのおっぱいを吸っていることをおかしいと感じないんです」

 

 

 ――それは困りましたね。

 「もう一つ問題なのは、お母さんは急に自分の息子が男になったのに気付いて、遠ざけることがあります。すると、昨日まで僕のことを抱っこしてくれていたお母さんが急に僕を避けるということで、アスペルガーの男の子は理由がわからなくて混乱するわけです。一般的な子どもは、ほかの子どもとグループを作って、お母さんと徐々に距離ができていく。そして今度は彼女ができるわけでしょう。彼女ができない男だとうちにいるしかありません。アスペルガーの家庭だと、たいていお父さんは家にいませんから、お母さん自身も寂しくて、息子とくっついてしまいます」

 

 

「アスペルガーの人が上手にパートナーシップを築くには、親の育て方が大事」と話す宮尾さん

 ――共に依存してしまうわけですね。

 「そうです。その息子とくっついている時に、ある日男になっていることに気づき、遠ざける。すると、子どもはお母さんに暴力を振るうこともあります。また、お母さんは、生理的なことを性的なことと勘違いして、自分が何とかしてあげなくてはと処理してあげてしまうこともあるのです。夫は家庭に不在でコミュニケーションも取れませんから、だんなにどうにか教えてあげてねということもできないのです。アスペルガーの男性は、自分がこっそりやっていることを人に見られるのを嫌います。私が診ていた患者さんもそうですが、おしっこをするところをお父さんが人に見られるのがいやだからと、お母さんが立って教えてあげたそうです」

 「もう一つの問題は、男の子にとって、父親と母親はいつまでも父親と母親なんです。女の子にとっては、父母は未来の夫婦像なんです。男の子の方は、結婚して自分が夫として生活を作っていくということを考えない。未来を想像できないのです。どういう家庭を作るのか、自分の家族で学んでいないのです。だからこそですが、母親と娘の関係はややこしいこともあります」

 ――女の子のアスペルガーの場合は、どのように対処ができますか?

 「極端なことを言えば、戦前の女性教育です。男女7歳にして席を同じくせずですよ。セックスは結婚するまでいけません。何か男性に性的なことを言われたら、家に電話して相談しなさいと教え込む。私が診ていたある女の子は、好きであることとセックスすることの違いがまったくわかりませんでした。13歳の女の子が、付き合っていた同じ年の子どもと性的な関係を持ってしまいました。相手が裏で悪いことを考えているということが想像できないのです。町を歩いていたアスペルガーのある子が、『お嬢さん、すごく汗をかいていますね。それじゃ体に悪いから、シャワーを浴びた方がいいのではないですか?』と言われて、ついていってしまったということもありました。ですから、そういうことを親は一つ一つ教えなくちゃいけないのです。男女の関係はほとんど非言語のコミュニケーションで成り立っています。理解するのがアスペルガーの人は苦手なのです。一般の人のように、裏にある意図を読めて、逃れるコツを知っているなら大丈夫ですが、デートをして『あなた今日は疲れているでしょう。何もしないから今晩泊まりなさい』と言われて信じてしまうのがアスペルガーの女性です。だから、親が必ず報告しなさいと戦前の厳格な親のように振る舞う必要があるのです」

 ――親は早期発見して、早めに対処した方が、本人も生きやすくなるのでしょうけれども、アスペルガー症候群を早めに気付くポイントはあるのでしょうか?

 「女性の場合は、思春期に身体不調が強く出やすいですね。女性の場合、思春期に女性ホルモンが出て、体形が変わり、生理が始まるわけですが、その変化が余計強く起きます。眠くてつらい。学校に行けないという人に多いです。また、感情と身体の間に結びつきがないのも特徴です。ある男のところに行くと、心臓がドキドキするので、私は心臓が悪いのだと思いますなんて言います。ある人は、おじいちゃんが死んだら、目から水が出る。お母さんも目から水が出ている。なぜ?と聞きます。それが悲しいという気持ちで、その水は涙なんですよと説明して初めて結びつきます。また、ガールズトークができない。それが一番発見しやすいかな」

 「それから結婚前に男性に性的に望まぬことをされたという人に多いです。女性の場合は、基本的にほかの人の目を気にしないから、スカートが極端に短い人が多いのです。これが10代前半ならおかしくないですが、18、19歳だとおかしいでしょう? 私の診ていた人で水商売に行った人がいますが、『私は水商売に入って初めて、働く喜びを得ました』と言うのです。おじさんたちがあなたはよく笑ってかわいいねとちやほやしてくれる。それはもちろん、距離感がないからです。ベターとくっつくから、男が喜ぶんです。でも、話すと面白くないから、その人気は長く続かないですね」

 ――男性の場合は、何が早期発見の決め手ですか?

 「男の子の場合はやはり、こだわりですね。電車ばかりに没頭するとかですね。男女両方とも、感覚過敏はありますね。触覚のほかに音や匂いにも敏感ですね。わりと、特徴的なのは、しいたけが嫌いということですね。キノコが嫌いですね。キノコってかむとかみ切れるのだか、そうでないのかわからない。その感触がのみ込みづらくて、その経験を1度やると食べられなくなる。キノコをきらいな人は多いですね」

 

 

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